AIで一番価値があったのはコード生成じゃなかった

AIで一番価値があったのはコード生成じゃなかった

「AIを使えば、コードが数秒で書ける」「プログラムの自動生成で開発効率が10倍になる」——。

AIの波が押し寄せた当初、多くの人がその「コード生成能力」に目を奪われ、自分もまた「AIは究極のコーディング補助ツールだ」と考えていました。

しかし、現場でAIと向き合い、対話を重ねる中で行き着いた結論は少し違っていました。

AIがもたらす本当の価値は、コードを書くことそのものではなかったのです。

第1章:本→ネット→AI(情報収集の変遷)

かつて、私たちが技術や業務のノウハウを手に入れる手段は「本」でした。体系立てられた知識を何冊も読み込み、現場に落とし込む時代です。

それが「ネット」の登場によって一変しました。検索エンジンを使えば、知りたいエラーや関数がピンポイントで手に入る。情報へのアクセススピードは劇的に上がりましたが、同時に「断片化された検索結果から、自分の文脈に合う答えを自分で再構築する」という手間も生まれました。

そして今、「AI」の時代を迎えています。

AIは単に情報を探してくるだけでなく、こちらの文脈や前提条件を理解したうえで、必要な形に加工して差し出してくれる。本からネット、そしてAIへ。知識の獲得手段は「探す」から「対話して整理する」へと進化を遂げました。

第2章:RPA開発者が見てきたブラックボックスExcel

私は長年、RPA開発者としてさまざまな現場の業務自動化に携わってきました。そこで嫌というほど目にしてきたのが、「ブラックボックス化したExcel」です。

  • 複雑怪奇に組み上げられたVBAマクロ

  • 特定の担当者しか解読できない数式の巣窟

  • 「なぜこの処理をしているのか」の理由が消えた業務フロー

現場には、特定の職人(担当者)の頭の中にしか存在しない「暗黙知」が溢れていました。RPAを導入しようにも、そもそも元となる業務プロセスがブラックボックス化しているため、仕様の紐解きだけに莫大な時間と労力が削られる……そんな現実が日常茶飯事だったのです。

第3章:AIはコード生成ツールだと思っていた

そんな現場にAIが登場したとき、最初に期待したのはやはり「コード生成」でした。

「VBAのこの処理を自動化して」「UiPathのロジックを代わりに組んで」と指示を出せば、一瞬でコードが吐き出される。確かに作業スピードは上がりましたし、最初はそれだけで満足していました。

「AI=開発効率を上げるための優秀なコード生成エンジン」

そう確信していた時期が、間違いなくありました。

第4章:壁打ちの中で気付いた「暗黙知→形式知」

しかし、AIの本領はコードを吐き出させることではなく、「AIとの壁打ち(対話)」のプロセスにありました。

頭の中にある曖昧な業務手順や、長年の経験で培った「なんとなくの判断基準」をAIに説明しようとすると、AIは疑問点を返してきます。

  • 「この条件の時、例外が発生したらどう処理しますか?」

  • 「AのデータとBのデータの紐付けルールを明確に定義してください」

AIに伝わる言葉(プロンプト)に落とし込むプロセスそのものが、自分や現場の頭の中に閉じ込められていた「暗黙知」を言語化し、「形式知」へと変換する作業になっていたのです。

コードが生成されたのは、単なるその「結果」に過ぎませんでした。一番の価値は、AIという壁打ち相手を得たことで、長年放置されていた複雑な業務の構造が綺麗に整理されていく過程にありました。

第5章:AIの本当の役割は知識整理と継承かもしれない

そう考えると、AIの本当の役割は「コーディングの自動化」という狭い領域にとどまりません。

本質は、「個人の頭の中にある知識を整理し、組織として継承可能な形に残すこと」にあるのではないでしょうか。

熟練者が持つノウハウや勘をAIとの対話によってドキュメント化し、ナレッジベースとして構築する。これにより、誰かが退職しても業務が止まらない環境が作れます。かつてのブラックボックスExcelのような「特定の人に依存する技術・業務」をゼロにしていく力こそが、AIの真価だと感じます。

第6章:企業が欲しいものと、個人が守りたいもの

ここに、これからの企業と個人の面白い(そして少しシビアな)ギャップが生まれます。

  • 企業が欲しいもの:属人性を排除した「再現性のある知識と仕組み(形式知)」

  • 個人が守りたいもの:自分だけの価値を守るための「専門性やノウハウ(暗黙知)」

企業側はAIを活用してすべてのノウハウを形式知化し、誰でも回せる組織を作りたいと考えます。一方で、個人側は「自分しかできない仕事」を渡すことに無意識の抵抗感を持つこともあります。

しかし、AI時代において自分の知識をAIに開示し、整理・継承できる人は、単なる「作業者」から「構造を作れる人」へとステージが上がります。暗黙知を抱え込むのではなく、AIを使ってどんどん形式知化し、組織の資産に変えていける人材こそが、結果としてこれからの現場で最も重宝されるのではないでしょうか。

AIにコードを書かせるだけの時代はもう終わりです。 これからは「AIと一緒に、いかに知識を整理し、次へ引き継ぐか」が、エンジニアやビジネスパーソンにとって最大の課題になっていくはずです。



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